鑑賞者の声

陰謀論という名の陰謀

「ZERO」という映画を観てきた。ZEROというのは2001年に世界貿易センタービルを襲ったいわゆる「911事件」のグラウンド・ゼロに、ビンラディンがやったという証拠ゼロ、米政府がまとめた公式評価に真実ゼロをかけたものだ。しかし911事件の公式見解に疑問を持った途端、周囲からは「陰謀論者」のレッテルが貼られ、えも言われぬ疎外を受け、あるいはひどい中傷を受ける。だからぼくも、積極的には自分が公式見解を信じていないことを言いたくない。

 しかし内側はどうかと言うと、ずっと信じていない。38メートルのボーイングが5メートルのペンタゴンの穴に入りはしないし、イギリスのBCC放送の記者が「ただ今入った情報です。貿易センター第七ビルが崩壊したとの情報が入ってきました」と放送している後ろに、当の第七ビルがまだ建って映っていたことも超能力で知ったとは思えない。ひとつ信じられないなら、ひとつながりで理解される一連の事件だって信じるわけにいかない。

 それはぼく自身の内側で信じるわけにはいかないのだ。ところが多くの人の判断は、周囲の人たちのムードに左右される。周囲が「陰謀論」などと怖いレッテルを貼られる環境の中で、自分だけの見解は持てないようだ。しかし「真実」以外に何を信じると言うのだろうか。

 たとえば学者の人たちとつき合うと、「その説は言えないなぁ」ということによく出くわす。「学会でつま弾きになっちゃうよ」というものだ。また先日の検察庁でのFD改ざん事件でも、「これは誤操作だったんだ!」と強く上司に言われた途端、部下たちは何も言えなくなった。そんなもんだと思う。だからそうならないぼくは、「協調性がない」とずっと言われ続け、「変わった人」という評価を受けていたのだと思う。

 だけど本当のことを言おう。5メートルの穴に38メートルの飛行機は入らないし、シナリオがなければ「第七ビルが壊れました」と言ったあとに崩れるなんてことはない。

 ぼくが予測したいのは現実の未来だし、解決したいのは現実の問題なのだ。ところが元となる大事なデータにウソを入れてしまうと、架空の話にしかならなくなってしまう。いくらそのほうが多くの人に受け容れられるからといって、架空の話の上に築いたお伽話では解決に向かう鍵にはならない。

 ぼくが心配になったのは毎回貴重な情報を届けてくれているきくちゆみちゃんが、「陰謀論者」のレッテルにナイーブになりかかっていることだった。彼女が自分の内側の判断に従って表明することは何もおかしいことではない。それを受けとめる側がそれを正しいと思うかどうか判断すればいいだけの話なのだから。

 ぼくが聞きたいのは「その人に対する他人の評価」なんかじゃない。本当の真実を知るための信じ得るデータなのだ。そのデータに基づいて、ぼくはぼくなりに判断する。だから「陰謀論」かどうかなんてほっといてくれないか。

 今回の「ZERO」は再び重要なデータを届けてくれた。米軍が特許を持つ鉄を溶かせる高性能爆弾「テルミット」の痕跡が検出された。建築時には加えられていない硫黄やバリウムなどの成分だ。それなら「制御解体」と呼ばれるビル解体技術そっくりに第七ビルが崩れたのもうなずける(貿易センタービルもそう見えるが)。そして多くの生存者・関係者が、無視される中で必死に本当のことを証言している姿も映し出される。

 陰謀論者とレッテルを貼りたがる人たちから言われる、「もしあれが政府のしたことなら、なぜ誰もそのことを公表しないのか」という質問にも答えになるだろう。無視されているのだ。同じ言い方をすれば、「もし上関原発に反対の人がいるなら、なぜテレビや新聞で紹介されないのか」となるだろう。それはいないのではない。無視され、どこにも公表されないだけだ。

 ではなぜビル解体のような大がかりな準備ができたのか。第七ビルのオーナーは保険金をたんまり儲けた。つまり予定されていたとしか考えられない。「予定されていた? 一体どこまで?」それは各人で考えてもらいたい。レッテルを気にする以前に事実に耳を傾けてほしい。ぼくはこの「ZERO」を観てから言葉を発してほしいのだ。

 たとえば紛争は、よく「心の問題だ」などと言われる。なぜエネルギーや資源問題のある場所に集中して起こるのだろうか。エネルギーや資源がある場所では、人々の心が悪くなるのか。ぼくは資源と利益の関係を調べた上で、紛争はエネルギーや資源の利益の奪い合いだと考えている。それを無効にするための方法(たとえば自然エネルギーなど)を考え、実現していくために実行可能な手段を考える。

 ぼくが正しいなんて言うつもりはない。あくまでぼくの現時点での判断にすぎないからだ。あなたはあなたなりの結論を得ればいい。だけどお互い同じ時代に生まれていて、同じように「平和を求めている」なら、互いに敬意を持って接していいのではないか。敬意を持たない人には、「もしかしたら他のものを求めているのではないか」と考えざるを得ないのだ。自分の利益や名誉・立場を優先してしまうのなら、そりゃ他の人の判断が自分の利益を台無しにしかねないのだから、他者の存在を消去したくもなるだろう。

 それぞれが自分なりに考えて判断すればいい。同じになろうなんて気持ち悪いことを考える必要はない。それより伝えたい言葉がある。「ZERO」に出てくる父親の言葉だ。彼は911事件で26歳の最愛の息子を失った。

 「真実を求めない者は自分を恥ずべきです」と。

田中 優

田中 優さんプロフィール

1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」 理事長、「日本国際ボランティアセンター」「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、大東文化大学の非常勤講師。 著書(共著含む)に『環境破壊のメカニズム』『日本の電気料はなぜ高い』『どうして郵貯がいけないの』(以上、北斗出版)、『非戦』(幻冬社)、『Eco・エコ省エネゲーム』『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方』『戦争をしなくてすむ世界をつくる30の方法』『世界から貧しさをなくす30の方法』(以上、合同出版)、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』(岩波書店)『地球温暖化/人類滅亡のシナリオは回避できるか』(扶桑社新書)『おカネで世界を変える30の方法』『天然住宅から社会を変える30の方法』(合同出版)『今すぐ考えよう地球温暖化! 1〜3』(岩崎書店、子ども向け)『おカネが変われば世界が変わる』(コモンズ)『環境教育 善意の落とし穴』(大月書店)『ヤマダ電機で電気自動車(クルマ)を買おう』(ランダムハウス)『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』(河出書房新社)他多数。

田中優の'持続する志'  http://tanakayu.blogspot.com/

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